ずっと何年も、
自分のためにお金なんて使ってなかったから、
いざ自分のために何か買おうと思っても、
何を買えばいいのか全然わからなかった。
服も、遊びも、趣味も、何一つ持っていなかったから。
そのくらい、自分を後回しにして追い込まれていた。
ちょうどバレンタインが近いということもあって、
コンビニに高いチョコが売っていた。
金色の箱に入った、
普段の自分なら絶対に見向きもしないようなやつ。
一番それがいいものだと思ったから、それを買って食べた。
そしたら、衝撃的だった。
めちゃくちゃ高級なチョコ。
口に入れた瞬間、
この世にはこんなうまいもんあんのかってくらい
死ぬほど驚いた。
今まで最低賃金で、
自炊で一食200円以下のゴミみたいな飯しか食べてこなかった。
ここ5年くらい、ずっとそんな生活だった自分には、
その一口が信じられないくらいの驚きだった。
「飯って、こんなに味がするのか」と思った。
そのまま、実はずっと気になっていた
「中本」というラーメン屋に行った。
激辛で有名だけど、
自分には無縁だと思ってた店。
最後だし、食べてみようと思った。
そしたら、これも想像の何百倍も辛くて、
こんな辛い飯があんのかとまた驚いた。
チョコとはまた違う強烈な感覚が体中を走った。
それから2日近く、とんでもなく腹を壊した。
ほぼトイレに篭りっぱなしになった。
「痛い、痛い」と思いながら、ずっとトイレにいた。
死ぬ気なんて、そのトイレにこもっている間に
いつの間にか失せていた。
死ぬことよりも、
今この腹の痛みをどうにかすることと、
あのチョコやラーメンの味が頭から離れなかった。
どちらかというと、
まだ食べていない美味しいものをもっと食べるために、
金を稼いで生きたいと思った。
「世界には、まだ俺の知らないどんな飯があんだろ」って、
トイレに篭りながらスマホでずっと調べていた。
普段は仕事で忙しくてそんな暇ないし、
携帯の通信制限とかも気にしていたから、
見たことはあっても自分ごとにして考えたり、
調べたこともなかった。
でも、その時は制限なんてどうでもよくて、
夢中で調べた。
見たこともないような肉や、
色鮮やかな料理の写真が無限に出てきた。
これらを全部食わずに死ぬのは、
あまりにももったいないと思った。
その後、自分は馬鹿だったから
「自分には最低賃金の仕事しかない」と思っていたが、
広告で未経験何十万みたいな仕事がすごいあった。
え?と思ってもっと給与の高い仕事を探した。
学歴とか関係なく、もっと稼げる場所があるはずだと思った。
いろいろとあって、鳶職の世界に入った。
最初はきつかったけど、
給与はいっぱいになった。
頑張れば頑張った分だけ、
うまい飯が食えると思えば、
何だってできた。