そこからの4年間、私は狂っていました。
20代から40代までの間に
一生かけて貯めてきた4000万円という貯金のすべてを、
文字通り彼女に注ぎ込みました。
だんだんとグループも大きくなり、
全国ツアーも開催されるようになりました。
彼女の夢が叶っていくのが
自分の夢が叶っている感覚でした。
CDを何千枚も買い込み、
部屋は未開封のプラスチックの山。
日本全国、
北海道から沖縄まで、
彼女の影を追って
遠征を繰り返しました。
彼女をランキングで1位にするため、
順位が出るイベントの前では
銀行の窓口に並び、
とんでもない額を引き出していました。
そこまでして注ぎ込む行為に、
当時は微塵の疑念もありませんでした。
むしろ、そこまでして支えている自分に酔っていたのです。
彼女のSNSアカウントには、
とてつもない速度でリプライを送り続けました。
通知が来れば、
仕事中でも商談中でも
即座に反応し、
誰よりも早く、
誰よりも熱烈な「愛」を語る。
投稿から1秒で反応することに
命をかけていました。
彼女からの「いいね」一つ、
リプライ一通で、
私は世界の中心にいるような有頂天になり、
その喜びを維持するためにさらなる課金を重ねました。
「私たちは特別な関係なんだ」と
本気で信じていました。
婚期を完全に逃していることも、
職場の同僚が
「マイホームを建てた」
「子供が少年野球で活躍した」
なんて話をしていることも、
すべて
「私には彼女という唯一無二の存在がいるから関係ない」と、
自分に言い聞かせ、
現実から目を背け続けていました。
でも、
終わりはあまりにも呆気なく、
一瞬でした。
彼女のグループ脱退が決まった翌日、
あんなに熱心に送り続けていた私のリプライは、
もう届く宛てを失いました。
彼女のSNSアカウントは、
何の前触れもなく、
即座に消去されました。
最後のライブが終わったあとの楽屋口でも
出待ちをしていたのですが
会うことはありませんでした。
残されたのは、
4000万円という膨大な使途不明金と、
空っぽになった50代に差し掛かる自分だけ。
職場の後輩が
「子供の運動会、ビデオを回すのが大変で」
なんて笑っている声が、
今の私には鋭利な刃物のように刺さりました。
私の4年間は、
ただのゴミだったのか。
一瞬でゴミ箱に捨てられるような、
ビジネスの駒でしかなかったのか。
誰にも助けを求められず、
休日は独りの冷え切ったアパートで、
私は文字通り自分の頭を抱えてうずくまって
布団から出られずにいたのを覚えてます。
「おしまいだ。私の人生、何一つ残らなかった」
身も心も疲れ果てていました。
ホームセンターで買った太いロープを鞄に隠し、
死に場所を探してふらふらと街を歩きました。
公園の木か、
それとも人気のいない高架下か。
心臓が、
嫌なリズムで、
ドクドクと不規則に跳ねていました。