最初は、本当に些細なきっかけでした。
中堅の商社でプロジェクトリーダーを任され、
毎日が責任とプレッシャーの連続。
夜、疲れ果てて帰る電車の中で、
無料のパズルゲームを始めたのが始まりでした。
画面上で弾けるエフェクト、
小気味いい効果音。
仕事でどれだけ理不尽な目に遭っても、
ゲームの中だけは自分の操作一つで
確実に「成果」が出る。
それが、渇いた心にじわじわと
染み込んでいきました。
「一度だけ、ガチャを回してみようかな」
数百円の課金。
そこから、私の人生の歯車は静かに、
でも確実に狂い始めました。
私は仕事に対する自分の力量のなさを
強く感じていました。
どれだけ働いても、
数字を出しても、
心が満たされない。
その空虚さを埋めるために、
スマホの画面の中にある「強さ」に
執着するようになりました。
さらに僕を追い詰めたのは、
ゲーム内で知り合った
「ネット上の友達」の存在でした。
ギルドのチャットで僕がレアキャラを引くと、
「さすがリーダー!」
「今回も神引きですね!」と、
現実の世界では誰も言ってくれないような賞賛が浴びせられる。
あの薄っぺらな肯定の言葉が欲しくて、
僕は食費を極限まで削るようになりました。
一食19円のうどん玉を茹でて、
塩だけで食べる。
それすら惜しくなって、
職場の給湯室にある無料のスティックコーヒーで
空腹を紛らわす。
そうして浮かせた数千円を、
一瞬で消えるガチャの光に注ぎ込んでいました。